13/06/2026
【芥川賞と直木賞】
世界的に有名な文学賞はいくつもありますが、日本で有名な賞といえば、やはりニュースなどでも話題になる「芥川賞」と「直木賞」ではないでしょうか。
その候補作が発表されれば本屋に赴き、気になった作品を読んでいます。今回はどの作品が受賞するだろうかと予想するのも、毎回の楽しみのひとつです。
芥川賞は新人作家による純文学の短編・中編作品、直木賞はおもに中堅作家による大衆小説の単行本(短編集を含む)が対象となる文学賞です。しかし、芥川賞の候補になった作家がのちに直木賞を受賞することもあるように、その境界はやや曖昧です。個人的には、芥川賞は芸術性や文学性が評価されるような作品で、直木賞は分かりやすくエンタメ的な要素のある作品が多いかな、という印象を持っています。芥川賞作品は「癖が強い」と感じる作品もあって、それがまた良いと思いますし、直木賞作品はそのエンタメ性に好奇心を満たされるため、私はどちらも楽しく読んでいます。
さて、この芥川賞・直木賞、どのように選ばれるかはご存じでしょうか。
両賞候補作は公募によって集められるのではなく、雑誌や単行本として発表された作品の中から上半期・下半期の年2回、予備選考を経て選ばれます。その後、本選考を通じて候補作の中から受賞作が決定されます。本選考は現役作家らで構成される選考委員によって行われますが、この選考会の司会は『文藝春秋』および『オール讀物』の編集長が務めるのが慣習だそう。受賞作家は正賞として懐中時計、副賞に賞金が贈呈されます。そしてそれぞれ『文藝春秋』(芥川賞)、『オール讀物』(直木賞)に選評とともに掲載され、多くの人々の目に触れることになります。
この両賞の受賞は、今では作家として広く知られるための大きな登竜門の役割を果たしています。芥川賞・直木賞を創設したのは『文藝春秋』の創刊者であり、自身も作家であった菊池寛です。菊池寛が『文藝春秋』を創刊して以来、芥川龍之介は巻頭作品を、直木三十五は文壇ゴシップなどのコラム記事を執筆し、共に雑誌を支える存在でした。芥川と直木の死を悼んで、ふたりの友人でもあった菊池寛が1935年に芥川龍之介賞・直木三十五賞として創設したのが芥川賞・直木賞の始まりなのでした。
菊池寛は自身による作品だけではなく、『文藝春秋』の創刊、のちに文藝春秋社の社長として経営を担ったり、文学賞の創設に力を注いだりと、さまざまな面から文学の発展に寄与した立役者だったそう。私はこうしたエピソードを、門井慶喜さんによる小説『文豪、社長になる』で脚色やフィクションを交えながらですが、興味深く読みました。
芥川賞・直木賞の創設当初は菊池寛自身も賞の選考に関わっていましたが、のちに「この賞が永く続くように」との思いから、財団法人日本文学振興会へと運営を移しています。両賞は、無名もしくは新進作家を世に出すことを目的としていました。現在では、その目的を果たすように候補作の段階から大きな話題になりますが、創設当初は今ほど社会的反響は大きくはなかったようです。
注目を集めるようになった大きなきっかけのひとつは、1955年第34回芥川賞の受賞者である石原慎太郎の存在です。彼が大学在学中に当時最年少の23歳で芥川賞を受賞し、その受賞作『太陽の季節』が大ヒットしたことで、一気に賞への注目度が高まりました。その後も回を重ねるうちに、さまざまな話題で世間の関心を集めるようになっていきました。ミュージシャンやお笑い芸人など文学以外の分野で活動していた人物が受賞したり、最年少の受賞の記録が塗り替えられたり、と話題になった回がありました。今ではその時期になると書店で大々的に特集が組まれ、候補作が並びます。受賞作は既刊のものは一時品切れになったりすることもあるようで、私も受賞作を読みたい!と発表日に本屋に行ったら売り切れだったり、在庫がラスト1冊だったこともありました。
書店員によって選ばれる「本屋大賞」なども近年注目を集めている賞の一つで、この賞も大々的に特集が組まれ、ノミネートされたり受賞した作家は、一気に知名度がはね上がるようです。ただやはり、このような文学賞の盛り上がりの基盤には芥川賞・直木賞が寄与しているのは間違いなく、その創設に関わった菊池寛の功績と言えるのではないでしょうか。
銀座ショールームのある奥野ビルは、かつて菊池寛も住居・仕事場としていた「銀座アパートメント」という高級アパートでした。また、小樽ショールームが入居する協和浜ビル(旧・三井船舶ビル)では、石原慎太郎の父が山下汽船の支店長として働いていました。お近くにお越しの際は、ぜひ足を運んでみてください。どちらも昭和初期の面影を残す貴重な建物です。
銀座ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/ginza.html
小樽ショールーム
https://www.shokunin.com/jp/showroom/otaru.html
『文豪、社長になる』 門井 慶喜 (著)
https://amzn.to/4uEFxSJ
参考資料
https://recruit.bunshun.co.jp/about/award/
https://ja.wikipedia.org/wiki/菊池寛